研究課題/領域番号 |
22780161
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 史朗 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (70437268)
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キーワード | 転写因子 / ポプラ / セルロース / ヘミセルロース / リグニン / 二次木部 / ゲノム / MYB |
研究概要 |
本研究では、樹木の二次木部の細胞壁形成過程における遺伝子発現制御機構の概略を明らかにするため、木質成分のうち、二次木部の主要細胞壁成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)の生合成に焦点を絞り、これらの生合成を制御する新規の転写因子を同定し、転写因子を介した遺伝子発現制御機構を明らかにすることを目的とする。この目的を達成するため、1)転写因子遺伝子の候補の選定、2)転写因子遺伝子発現量の定量、3)転写因子遺伝子の全長cDNAのクローニング、4)全長cDNAを過剰発現および発現抑制させた形質転換体の作出、5)表現型解析、6)形質転換体の細胞壁成分の解析、7)転写因子が制御する下流遺伝子の同定および定量、8)トランスアクティベーションアッセイによる転写因子の活性評価、を行うことを計画し、本年度は、このうち5)および6)を行った。昨年度までに作成した新規転写因子MYB17と転写活性化ドメインVP16との融合タンパク質(MYB17-VP16)の過剰発現体およびMYB17と転写抑制ドメインSRDXとの融合タンパク質(MYB17-SRDX)の過剰発現体の表現型は、野生型と異なる表現型を示すことが見出されていたが、本年度は表現型の変化を定量的に解析した。また、MYB17-VP16過剰発現体では、野生型と比較し、葉のリグニン、セルロースが大幅に増加していた。一方、ヘミセルロース量は変化がなかったが、化学分析および抗体染色により、キシランが増加している一方でキシログルカンが減少していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回解析対象としたMYB17転写因子は、これまでに解析例のない新規転写因子であり、VP16との融合タンパク質をポプラで過剰発現させると、葉の細胞壁成分であるセルロース、リグニン、ヘミセルロースの量や構造が大きく変化することが初めて明らかとなった。このような知見は、これまでに報告がなく、極めて新規なものである。さらに、この知見を発展・応用させることにより、転写因子を介した木質形成機構の解明および転写因子を活用した木質形成制御への新たな展開が期待されることから、本研究課題は当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度のMYB17-VP16過剰発現体の解析結果より、MYB17-VP16の過剰発現によって、ポプラの葉におけるリグニン、セルロース、ヘミセルロースの量や構造が大きく変化することが明らかになったことから、今後はMYB17-VP16の下流でどの様な遺伝子が発現制御を受け、最終的にリグニン、セルロース、ヘミセルロースの量や構造の変化に至るのかを明らかにする。そのために、MYB17-VP16過剰発現体における網羅的な遺伝子発現解析や、下流遺伝子のプロモーター断片とMYB17とのゲルシフトアッセイを行うことにより、MYB17-VP16によって制御を受ける下流遺伝子を同定する。
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