本研究では、紙に機能を付与するために、紙と機能材料の複合化方法、特に、界面重合反応を応用した手法について研究を行った。紙表面上に界面を形成させ、その領域で重合を行い、揮発性化合物を内包したナイロン膜およびポリウレア膜を生成することにより、紙と揮発性化合物の複合化を試みた。本年度は、揮発性化合物としてゲラニオールおよびジエチルトルアミド(DEET)を使用した。そして、ナイロン膜およびポリウレア膜を調製したシートのゲラニオールおよびDEETの定着量および徐放性を評価し、内包物質による影響を評価した。 ゲラニオールおよびDEETを分散させた2.5-50%エチレンジアミン(EDA)水溶液にろ紙を含浸した後、1%二塩化テレフタロイルorヘキサメチレンジイソシアネート/シクロヘキサン溶液に10分間含浸した。その後、風乾して調製シートを作成した。液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、DEETの定着量および徐放性を評価した。 シート断面のSEM観察の結果、EDA水溶液濃度が高くなるにつれて膜厚が大きくなる傾向であった。ポリアミド膜とポリウレア膜を比較した場合、すべての条件においてポリウレア膜の方が薄くなった。例えば、EDA濃度が10%の場合を比較するとポリアミド膜およびポリウレア膜の膜厚は、それぞれ20μmおよび1.5μmであった。ゲラニオールおよびDEETのポリアミド膜調製シートおよびポリウレア膜調製シートの定着量は、EDA濃度が25%の時に最大値を示した。その際の定着量は、ゲラニオールの場合、41mg/m^2、DEETの場合、32mg/m^2であった。本研究で調製したシートの72時間後の残存率は、ブランクシートの1.2%よりもすべての条件において高かった。DEETを含有したポリウレア膜の残存率は72時間で57%を示し、調製した調製条件で最も高い残存率であった。このことから、本研究の界面重合反応を利用した手法は、紙に徐放性を付与する手法として、有効であることが示された。
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