研究概要 |
OMV(Oncorhynchus masou virus;SaHV-2)はサケ科魚類に感染して肝炎と基底細胞癌を引き起こすウイルスである。このウイルスは1978年に分離されて以来,わが国の増養殖現場で猛威を振い,サケ科魚類種苗の安定的生産の妨げとなっている。本研究は,OMVの全ゲノム配列決定とゲノムワイドな解析を展開し,宿主の発癌誘起機構の解明とOMV感染防御に有効なワクチンを開発することを目的とした。OMVゲノムは約164kbpであり,およそ3kbpのリピート領域が含まれ,ロングユニーク領域と両端に逆位反復配列が位置したショートユニーク領域から構成されていた。ORFのホモロジー検索の結果,魚類および両生類のヘルペスウイルスに保存されている12の遺伝子はOMVゲノムにも存在した。エンベロープを構成するタンパク質をコードすると予測されるORFをはじめ,いくつかのORFはサクラマス由来株と大型魚に対する病原性を有するギンザケおよびニジマス由来株間でアミノ酸配列に相違がみられ,病原性に関わる遺伝子の候補と考えられた。哺乳類のヘルペスウイルスではウイルスゲノム中の癌遺伝子が細胞のアポトーシス誘導を抑制し,細胞の癌化を促進することが知られている。OMVのあるORFはアポトーシス抑制タンパク質の機能が付されていたことから,腫瘍原性にこの遺伝子が関与している可能性が示された。ワクチンについては,10^<6.7>TCID_<50>/0.1mL/尾の不活化ワクチン液を平均体重23gの供試魚の腹腔内に接種し,14日後に攻撃試験を行った場合のワクチン有効率は,実用的ワクチンの基準値である60%を超え,平均74%に達した。
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