まず前年度に確立した細胞表面ディスプレイにより、トラフグ特異的な寄生虫Heterobothrium okamotoiに対するレセプターの同定を目指した。トラフグ鰓の完全長cDNAを調製し、発現ベクター(pISD2)に組み込んで発現ライブラリーを得た。これを昆虫細胞(High Five^TM)にトランスフェクトさせて細胞ライブラリーを作製した。これにビオチン化したH. okamotoiの膜タンパク質、およびストレプトアビジン磁気ビーズを反応させ結合した細胞の濃縮を行った。その結果、細胞は回収できたが数が少なく、また生残率も極めて低かったために2次スクリーニングまで進めなかった。今後、実験条件を至適化したりするなどの改善が望まれる。これと並行してサブトラクティブPCR法により、トラフグとクサフグの鰓における発現量に差がある遺伝子の探索を試みた。これまで約300クローンについて配列を決定し、いくつかの候補膜タンパク質分子を得ている。この中に我々がかつてトラフグ体表粘液から発見したパフレクチンが含まれていたため、この分子に着目してさらに研究を進めた。クサフグの鰓で発現しているパフレクチンcDNAの塩基配列を決定し、これをトラフグの配列と比較することにより両者とも増幅可能なプライマーを設計した。これを用いた半定量的RT-PCRの結果、トラフグの方がクサフグよりもパフレクチンの発現量がはるかに多いことが示された。トラフグパフレクチン特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングでも同様の結果が得られた。これらの結果とH. okamotoiはトラフグには寄生するがクサフグにはしないこと、およびトラフグパフレクチンはこの寄生虫の虫体表面に対する結合能があることから、本来は生体防御の役割を果たしているパフレクチンを寄生虫が逆に利用することで宿主特異性が示されている可能性が考えられた。
|