研究概要 |
食の安全が脅かされる事件が多発している中,平成18年から日本ではポジティブリスト制度が導入され,水産用医薬品だけでなく,最大残留基準値を超える農薬類を含有する水産物の流通が禁止されるようになった。しかしながらここ数年,輸入水産物において薬事法で使用が禁止されているマラカイトグリーンの検出事例が多数報告された。また,国内の養殖環境においては,農薬が直接使用されることはないが,近隣の畑やゴルフ場からの流入など,生産者の意図しない農薬汚染があり,そのリスク管理が課題となっている。一方で,これらの薬物の魚体内での残留メカニズムに関する研究は少ない。 本年度は,マラカイトグリーンやクリスタルバイオレットなどのトリフェニルメタン系色素の曝露によるティラピアMDR(multidrug resistance)遺伝子の発現誘導をmRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方から解析し,薬物動態との関連を調べた。その結果,マラカイトグリーンの曝露により,筋肉において,MDR遺伝子の発現がmRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で亢進され,残留マラカイトグリーンの濃度とも相関を示した。解析した個体数が少なかったものの,MDRはマラカイトグリーンの残留・排出に関与し,魚体内での残留をモニタリングする上でのバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。MDRは薬物受容体PXRにより転写が調節されることから,CYP3Aなどその他のPXR標的遺伝子の発現解析を合わせて行うことにより,モニタリングの精度の向上と発現調節機構の解明につながることが期待される。一方,クリスタルバイオレットの曝露では,MDRの有意な発現誘導は見られなかったことから,他の薬物受容体の関連が予想され,新たなマーカー遺伝子を探索する必要性が生じた。
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