シオミズツボワムシ(以下ワムシ)の全mtDNA塩基配列をPCRにて安定的に増幅するための反応液組成とプライマーを用いて増幅を行った。この増幅断片を制限酵素消化しそ得たDNA断片のRFLP解析をおこない、形態種として従来法で分類されている3タイプのワムシ(L型、S型、SS型)においてそれぞれのタイプで共通なRFLPフィンガープリントを検索した。その結果、タイプ毎に明確な共通するRFLPフィンガープリントパターンは見られず、RFLP解析による形態種の判別は困難であることを明らかにした。 次にワムシの"種"の基礎となる生殖に関連するMate Recognition Pheromone (MRP)遺伝子に着目した。MRP遺伝子がコードしているタンパク質は、雄ワムシが同種の雌ワムシを認識し、交尾するために必要な雌ワムシに存在している。昨年度、本研究に用いた同一のワムシ株(L型10株、S型6株、SS型7株)を個別に培養し収穫した。これらのワムシよりtotal RNAを単離し、sscDNAを合成した。MRP遺伝子断片の増幅用PCRプライマーは、他の研究グループが既に解析しGenBankに登録されているロシア株(L型)MRP遺伝子配列を基に設計した。このプライマーを用い、各ワムシ株のsscDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、L型に分類されている7株より増幅断片が得られた。しかし、S、SS型の本遺伝子は全く増幅できなかった。増幅したL型ワムシ株のMRP遺伝子配列の一致率は約98%と高い値であった。これらのL型ワムシのmtDNAにコードされているCOX1遺伝子の一致率は約78%であり、形態種による分類にはMRP遺伝子配列が適していることが示唆された。L型ワムシのMRP遺伝子配列をもと作製したプライマーでS型およびSS型ワムシのMRP遺伝子が増幅されなかったことは、これらの形態種では本遺伝子配列に大きな違いがあることが推定され、このことからも形態種によるワムシの分類にはMRP遺伝子配列が適していると考えられる。
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