日本海側が太平洋側とは、現在と過去の気候やその変動パターンが大きく異なることは広く知られた現象である。日本海は過表の氷期・間氷期サイクルによる気候変動の影響を顕著に受けた代表的な水域であり、特に、最終氷期の最盛期(LGM)には極端な海水準の低下による外側海域との分断化が生じ、低水温化・低塩分化などの大きな環境変動を経験したとされている。それでは、このような氷期の寒冷化を含む変動環境の中で水圏生物の日本海集団固有の適応進化は生じたのだろうか?筆者は、水圏、特に海洋の自然集団の適応的分化にアプローチする絶好のモデル系として、日本海-太平洋間の遺伝的変異に注目し、シロウオに見られる日本海型と太平洋型をモデルとして研究を進めてきた。本研究は、シロウオのような典型的な非モデル生物において、効果的な手法であると考えた網羅的遺伝子発現解析のアプローチ(HiCEP法":放射線医学総合研究所が開発したトランスクリプトーム解析のためのcDNA-AFLP法の一種)の適用可能性を詳細に検討し、その手法を用いて日本海型の適応進化と関連した候補遺伝子群の網羅的探索を目的としている。シロウオ日本海型(福井県敦賀産)、太平洋型(和歌山県那智勝浦産)のそれぞれの筋肉組織からRNAを抽出し、mRNAの調整後、制限酵素処理、アダプターライゲーションを行い、得られたprePCR産物を用いて、選択的PCRを実施した。一個体あたりHiCEP解析をduplicatesで行ったところ、すべての選択的PCRプライマーセットで非常に高い再現性が得られた。さらに、それぞれの集団内におけるピークの出現パターンは類似していた。従って、HiCEP解析は、本種の組織から得たRNAを用いた場合でも、有効な網羅的遺伝子発現解析法であることが明らかとなった。
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