近年,主にゼブラフィッシュを用いた実験系によって,鰓の塩類細胞においてNa/H交換体(NHE3)とRhタンパクが協同してアンモニア依存性のNaイオン取り込みを行うというモデルが提唱された.このモデルは,これまで化学量論的に疑問視されていた淡水環境におけるNHE3の機能を裏付けるものである.しかし,広塩性魚類における知見が不足しているため,今年度はニジマスを用いて,NHE3とRhタンパクを中心とした塩類細胞の機能的分類を試みた. ニジマスのRhタンパク群から3種類のアイソフォームを選択し,それぞれに対する特異抗体を作成したところ,3種のうち2種が塩類細胞のapical膜(環境水に面する細胞膜)に特異的に発現することが明らかとなった.また,これら2種のRhタンパクは,NHE3と全く同じ挙動を示すことが明らかとなった.さらに,ニジマスを淡水・海水・低イオン水・酸性水の4区に馴致させ,Rhタンパク,NHE3,NKAおよびNKCC1を同時多重免疫蛍光染色によって可視化したところ,ニジマスの塩類細胞は(1)NKA陽性,(2)NKA陽性',(3)Rhタンパク・NHE3・NKA・NKCC1陽性,の3型に分類された.3年間の本研究課題において,魚種によって若干の違いはみられたものの,すべての魚種においてニジマスの(3)に相当する塩類細胞が存在したため,この型の塩類細胞が真骨魚類の浸透圧調節機構において中心的な役割を果たしていることが明らかとなった.塩類細胞の機能的分類という今までにない切り口によって,真骨魚類の浸透圧調節機構の共通性と多様性を解明することができた.3年間の成果のうちRhタンパクに関するもの以外は,Respir. Physiol. Neurobiol.誌でreviewとして公表した(Hiroi and McCormick 2012).
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