ワカサギ孵化放流事業では、仔魚の大量斃死が起こる事例がみられる。事業効率化のためには、放流前に胚の健苗性評価を行い、大量斃死を抑止する技術を開発しなければならない。過去の研究から、卵中の甲状腺ホルモンが魚類の初期発生に重要な役割を果たしており、同ホルモンは甲状腺ホルモン受容体(TR)と結合して、その作用を発現することが知られている。これまで研究代表者は、胚のTRmRNA発現量と孵化後斃死率の間に相関がある傍証を得ている。本研究は、TR遺伝子の発現量を指標としたワカサギ胚の健苗性評価技術及び仔魚の生残率向上技術の開発を行うことを目的とした。平成22年度は、1.ワカサギTRcDNAのクローニング及び2.TR遺伝子発現量測定系の開発を行った。 1.cDNAクローニングの結果、3種の異なる塩基配列を有するTRcDNAを得た。cDNAの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を他魚種のTRαまたはTRβと比較したところ、3種のワカサギTRcDNAは他魚種TRと90%以上の高い相同性を有し、それぞれTRαA、TRαB及びTRβに相当すると推察された。決定した本種TRαA、TRαB及びTRβcDNAはそれぞれ全長1465bp、1451bp、2125bpであり、それぞれ417、401、395のアミノ酸残基をコードする翻訳領域を含んでいた。 2.課題1.で明らかになった3種(TRαA、TRαB、TRβ)のTRcDNA塩基配列において、特異性の高い5'側非翻訳領域及びA/Bドメインからプライマー及びTaqManMGBプローブを作成した。スタンダードには、TRcDNAクローニングの際5'RACE-PCRで単離されたTRcDNA断片を用いた。リアルタイム定量RT-PCR法によりTR遺伝子の発現量測定系を確立したところ、3種の測定系のアッセイ内及びアッセイ間変動係数は低値を示し、確立した測定系の精度が高いことが明らかになった。
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