近年、EUを中心に食品の衛生指標菌の検査は、大腸菌群から「腸内細菌科菌群」を指標とした検査に移行してきている。日本においてもこれまでは食品の衛生指標として、大腸菌群、糞便性大腸菌群が用いられてきたが、ユッケによる食中毒事件をきっかけに生食用食肉については、腸内細菌科菌群を衛生指標菌とするよう検査法が改められた。腸内細菌科菌群の検査法は、一般的にはVRBG培地を用いた培養法で行われるが、食品製造現場などにおいては、自主衛生管理法としてより迅速、簡便な検出・定量法およびその同定法が必要とされている。本研究では、分子生物学的手法を用い、腸内細菌科菌群の菌数を数時間で検出・定量できる手法を構築し、あわせてDNA多型解析法による簡易同定法を確立することを目的とし、研究を遂行した。 本研究では、標的遺伝子として細菌のハウスキーピング遺伝子であるrplP遺伝子を選択し、その領域内に腸内細菌科菌群特有の配列を見いだし、その配列を基にプライマーを設計し、リアルタイムPCR法を用い食品中の腸内細菌科菌群を定量するシステムを構築した。定量法の確立には、まず、段階的に希釈した数株の腸内細菌科菌群の培養液からDNAを抽出し、これをテンプレートとしリアルタイムPCRに供し、菌数とPCRの検出サイクルから検量線を作成した。次に、実際の食品中の腸内細菌科菌群の菌数を本PCR法のサイクル数から換算した。求めた菌数は培養法と比較し、本法による測定菌数が培養法と大きく変わらないことを証明した。 また、本PCRによって増幅されたPCR産物の配列が元の菌種により異なることに注目し、DGGE法を用いた簡易同定法を確立した。本法により食品中の腸内細菌科菌群のフローラを解析したところ、フローラの違いをほぼ解析することが可能となり、病原性のある腸内細菌科菌群が食品中に存在した場合、迅速に検出できるシステムを完成させた。
|