本研究は、国内産食用小麦(国内流通量82万トン)と、国内産食用小麦と蛋白質含有量が近いために強い代替財としての性質を持つ豪州産麺用小麦「スタンダードホワイト」(同76万トン)を対象として、様々な農業保護政策・輸入政策下における日本国民の厚生の構成要素それぞれの期待値と確率分布を、厳密な生物・物理・経済モデルを用いて調査することを目的とするものである。 研究の最終目的は、(1)制度変更が小麦農家の行動変化を誘導し、(2)小麦農家の行動変化が小麦市場の異なる均衡点、延いては社会厚生および社会厚生分配をもたらす、という一連の因果関係を生物物理モデルと経済理論を用いて定性的ならびに定量的に説明することにある。これを達成するためには、研究の前半にてまず上述の(2)、とりわけ小麦農家の作付品目、品種および施肥量に関する選択のメカニズムを明らかにした上で、それを踏まえて(1)の制度設計問題に取り組むという手順を踏むことが相応しい。 研究最終年度である本年度は、3年目までに実施した小麦栽培実験の結果から導かれた、播種時期・施肥量・品種等の栽培戦略と最終的な収量及び加工後の小麦粉の品質の間の因果関係を基に、典型的農家の直面する期待利潤最大化問題を表現する生物経済モデルを構築した。その上で、モデル内にパラメターとして存在している様々な政策変数を外生的に変化させた際、最大化問題の解がどのように変化するのかについて独自のアルゴリズムを用いて分析することにより、社会的に最適な制度に関する検討を行った。
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