本年度は、世界恐慌ならびに昭和恐慌後に深刻化した1930年代日本の農家負債問題に着目した。経済史・農業史分野において、昭和恐慌下の農家負債の実態整理を行った研究は多数存在するものの、1930年代の農家負債について、一定のまとまりのあるデータを用いて、定量的な分析を行った研究はほとんどない。そこで、積雪地方農村経済調査所『農家負債に関する調査』の個票データを用いて、1930年代日本の農家負債について、(1)負債目的・用途とそれらの農家間の差異、(2)利子率などの融資条件の規定要因、(3)金融機関へのアクセスと信用制約の存在、の3点に関する基礎的な事実を定量的に整理した。 その結果、第1に、負債用途の過半は家計支出であるものの、高収入層や自作層ほど生産・投資目的の借入が多かったこと、第2に、利子率は貸し手の属性によって決まっており、高収入層ほど有利な融資条件を得ていたとは限らないこと、第3に、高収入層ほど条件の良い銀行や無尽・講から借り入れる傾向にあり、担保となる土地の少ない自小作・小作層は銀行や無尽・講からの借入が難しかったことなどがわかった。 以上の知見は、1930年代の農村金融に関して、(1)家計によって信用用途や信用度は異なるとともに、金融機関等も特定の用途・条件による融資を行っていたこと、(2)産業組合などのフォーマル金融は全ての階層に幅広く開かれていたわけではなく、自小作・小作層には信用制約が生じていたこと、(3)無尽・講はセーフティネットとして機能することがあったとしても、それは常に利用できたわけではなかったと考えられることなどを示唆している。 以上で得られた結果は、学術雑誌やセミナー等での報告を通じて、公表した。
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