本年度は、トマト・ミニトマト生産者によるマルハナバチの使用に関して昨年度までに収集したデータに基づき、生物多様性保全に配慮した農業技術の採用行動および普及過程を明らかにするための分析を行った。 愛知県のトマト・ミニトマト産地における農協および生産者を対象に実施したヒアリング調査およびアンケート調査を踏まえ、セイヨウオオマルハナバチを使用するトマト・ミニトマト栽培施設へのネット展帳のタイミングについて検討した。2006年の外来生物法による規制以降は、ネット展帳が義務づけられる一方、それまでは、生産者自身にとって都合のよいタイミングで、自発的に施設にネット展帳できた。 各生産者ごとにセイヨウオオマルハナバチ導入年とネット展帳年との差を計算し、負(セイヨウオオマルハナバチ導入年よりネット展帳年の方が早い)、ゼロ(同年)、正(遅い)となるグループに分類すると、それぞれのグループに属する生産者数は大きく異ならないことがわかった。この差を被説明変数とした多項ロジット・モデルにより、病害虫の進入防止目的の他に、生態リスクに関する知識の有無等がネット展帳のタイミングに影響を及ぼしたことが明らかになった。 続いて、ネット展帳のタイミングが遅い生産者のみを抽出し、生存時間分析を用いて、ネット展帳の遅さに影響を及ぼす要因について検討した。この結果、セイヨウオオマルハナバチが特定外来生物に指定されたという情報をマルハナバチ取扱業者から入手した生産者は、ネット展帳が相対的に早かったこと等が明らかになった。このことから、生物多様性保全に配慮した農業技術に関する外部情報源をもつ生産者は、当該技術をより早く採用する傾向にあることが示唆された。
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