本研究では、農業への新規参入者の定着を支援する「橋渡し役」について具体的な役割を整理して支援の効果を明らかにするとともに、「橋渡し役」となる人材の育成課題を検討した。第一に、実績をあげている「橋渡し役」の具体的な支援活動を把握した。新規参入者に対して農地や技術習得機会を提供するとともに、地域の農家との仲介や信用形成の場を作るといった地域への溶け込み支援を行うなど、「橋渡し役」の支援が広範に及ぶことを確認した。第二に、「橋渡し役」による多様な支援をメンタリング機能の分類に沿って整理した。その上で、新規参入者へのアンケート調査を実施し、「橋渡し役」による支援の頻度や重要性について、就農直後と数年を経過した後との比較分析を行った。「橋渡し役」による支援が新規参入者のキャリアパスに沿って変化するという結果を得て、新規参入者の定着状況によって支援の重点を変えていくという「橋渡し役」像を示した。第三に、新規参入支援の先進地域での聞き取り調査、観察を通じ、「橋渡し役」を継続的に確保していくことが新規参入支援の充実に重要であることを指摘した。地域の農家や新規参入者が農家グループを形成し、後に続く新規参入者の支援を行っている2地域の事例分析を行い、農家グループでの活動が「橋渡し役」の育成にも有効であることを明らかにした。 本研究は、「橋渡し役」の支援行動の実態分析や支援の受け手である新規参入者へのアンケート調査などによって、「橋渡し役」の支援の内実を整理し、これまでは手薄であった新規参入者の支援を行う人材へのサポートの重要性を指摘したという意義が認められる。また、新規参入支援を行う農家グループが、「橋渡し役」となる人材を育成するという機能を有していることを示した点で新規性があり、農業への新規参入に関する研究に、従来になかった視点を付け加えることができた。
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