研究概要 |
本研究の目的は,農耕地の余剰窒素が環境にどの程度の負のインパクトを与えるのかを,明らかにすることにある。本年度は,イチジク樹園地(マサ土農耕地)における無機態窒素の浸透流出量を算定することを目的に,Endo et al.(2009)が開発した,有限要素法汎用ソルバーを用いた土壌中の窒素輸送の数理モデルを改良した。本圃場にて採取した土壌の理工学的性質に関する各種試験を実施することにより,数理モデルに入力する諸パラメータ(土壌の透水性・保水性・熱物性・無機態窒素の吸着特性等)を同定した。また,圃場での気象観測(気温・湿度・全天日射量・降水量等)と周辺河川の水質モニタリング(pH・EC・DO・BOD・NH_4^+・NO_2^-・NO_3^-・PO_4^-・SO_4^<2->)を実施し,イチジク樹園地から周辺河川に流出(表面流出と浸透流出)する無機態窒素量を推定したところ,4月~6月の流出量が最も多かった。また,本圃場の透水性と水分容量は著しく低いため,浸透流出よりも表面流出が卓越していることがわかった。イチジク樹園地の土壌間隙水中に含まれる余剰窒素濃度(特に硝酸態窒素濃度)は,土壌表面において2月中旬で最も高かった。圃場の透水性が著しく低いため,深度20cm以深においては,硝酸態窒素濃度が1年を通じて低く推移していた。このため,深度1mから浸透流出する硝酸態窒素の量はゼロであった。以上のことから,透水性・水分容量がともに小さい農耕地においては,肥料成分由来の硝酸態窒素による地下水汚染のリスクは極めて小さいことが明らかになった。また,今年度の研究から,環境に対する負のインパクトの大きさを評価するためには,農耕地における硝酸態窒素の浸透流出量だけではなく,表面流出量も併せて加味することが必要であることがわかった。
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