研究概要 |
本研究では,先端的植物生産における課題(統合的環境制御と環境調和)に対応した栽培管理の新展開を図るために,以下の各課題について研究を実施した. 1.統合的指標"温室内蒸散要求度"の確立と蒸散速度評価・環境制御への利用 温室でパン蒸発速度を長期間(約2年半)に渡って観測し,温室内蒸散要求度の特性とその形成機構を解析した.また,基準蒸発散速度とパン蒸発速度との間に強い線形関係があるこを確認したことから,より安価に利用できる超音波式パン蒸発計の有用性を示した.さらに,異なる季節(春,夏,秋,冬)にキュウリ植物を栽培し,温室内蒸散要求度と葉のガス交換特性との関係を調べた.その結果,ガス交換特性に対する蒸散要求度のインパクトが季節によって異なること,また,夏季においては過度の蒸散要求度が植物にストレスを及ぼしている可能性を指摘した. 2.根による有機態窒素の直接吸収特性の評価と効果的な有機養液栽培の検討 根による有機態窒素の直接吸収速度と根圏温度との関係を調べた.根圏温度の上昇に伴い吸水速度は増加した.一方,導管中の有機態窒素濃度は5℃から25℃にかけて増加したが,その後40℃にかけては減少した.結果として,有機態窒素の吸収速度は,低温下(5℃)では極めて小さい値であるが,25℃までは温度上昇と伴に増加し,40℃にかけてはほぼ横ばいとなる傾向を示した.また,有機態窒素の種類による吸収速度の違いも見られた. 3.根の養分吸収特性の評価・モデル化と低投入低排出型の水耕養液の管理 根の吸水は,膜輸送タンパク質とイオンの邂逅頻度への作用を通してイオン吸収速度に影響するとの考えのもとに,蒸散統合型イオン吸収モデルを新規に提案した.本モデルに基づいたイオン吸収に対する環境作用の解析により,イオン吸収に対する多様な環境要素および蒸散(根の吸水)の作用を定量的に評価することが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を構築する3つの課題について,昨年度の取り組み(実験装置の構築,準備など)に基づいて本年度はデータの蓄積を行い,その成果も複数報の論文として報告する事が出来たため,達成度を(2)(おおむね順調に進展している)とした.
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今後の研究の推進方策 |
課題1については,温室内の特性をおおむね把握する事が出来たので,今後は環境調節技術の導入とその効果に取り組む予定である.課題2については,根圏の有機態窒素の濃度が直接吸収速度に及ぼす影響について実測し,その結果を反応速度論モデルによって解析する予定である.課題3については,本年度の成果は実験室の制御環境下でのデータであったため,今後は,温室の変動環境下においても蒸散統合型イオン吸収モデルが適用可能かどうかを調査する予定である.
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