先端的植物生産における「統合環境制御」と「環境調和」に対応した栽培管理の新展開を図るために,以下3つの課題に取り組んだ. 課題I(統合的指標 “温室内蒸散要求度”の確立と蒸散速度評価・環境制御への利用)では,温室内の日中の不適切な環境(乾燥と低風速)が気孔伝導度や葉面境界層伝導度を抑制し得ることに着目し,湿度・気流環境を調節するための新たなシステム(細霧器と循環扇)を導入して,その性能と葉のガス交換特性に及ぼす影響を調べた.先ず,導入システムの最適な運転スケジュールを決定した(細霧器は1分運転/3分停止,循環線は常時運転).次に,導入システムの使用によって,時間的・空間的な温室環境への影響を確認した.その結果,葉伝導度が約50%上昇することが確認された. 課題II(根による有機態窒素の直接吸収特性の評価と効果的な有機養液栽培の検討)では,根の有機態窒素濃度の吸収特性に対する根圏濃度の影響を調べた.根域濃度が増すにつれて,有機態窒素の吸収速度は増加し,やがて頭打ちになる飽和型曲線の変化を示した.この特性は,主に導管液中の有機態窒素濃度の変化に起因していた.これらの情報は,有機養液栽培時の適切な養液濃度管理に貢献すると考える. 課題III(根の養分吸収特性の評価・モデル化と低投入低排出型の水耕養液の管理)では,水ストレス下において蒸散統合型イオン吸収モデルが適用できるのか検証することを目的とした栽培実験とモデル解析を行った.NaとCl以外の各イオンの吸収速度は水ストレス区において対照区よりも小さい値となった.これらは,植物に対する水ストレスの影響だと思われる.得られた各イオンの吸収速度のデータをモデル解析した結果,両処理区における最大イオン吸収速度および根圏のイオンのマスフローに対する親和性は同程度であることが示された.これらの成果は,適切な水耕養液管理に貢献すると考える.
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