研究課題
本研究では、小麦粉製品のおいしさ予測モデルを開発するために、まず、製造現場での実用面を考慮し、簡易にデータを取得可能なイメージスキャナを用いた単純な撮像方法と画像処理により、「すだち」と呼ばれるパンの気泡構造のパラメータを定量化する一連の気泡画像計測アルゴリズムを開発した。そして、得られた気泡パラメータと物性パラメータの一つである粘弾性係数の相関分析を行った結果、気泡面積割合(気泡パラメータ)と粘弾性に正の相関(r>0.59,p<0.05)があることが分かった。すなわち、気泡面積の割合が大きいほど、「かたく」感じられることが示唆された。また、米粉および米を糊化させて調製した糊化米粉およびお粥を混合した糊化米粉パンおよびお粥パンを開発し、その粘弾性および気泡構造の特性を明らかにした。糊化米粉パンおよびお粥パンは既存の米粉パンや小麦粉パンよりも柔らかく、膨張性が高いことから、米を利用したパンの普及に貢献できると考えられる。以上の成果は英文雑誌に2報、和文誌1報にまとめ、公表した。さらに、様々な波長の光を試料に照射ときの蛍光応答を計測する「蛍光指紋」を用い、パン生地中のグルテンとデンプンの分布を可視化する手法を開発した。可視化手法、及び、可視化によって明らかにされたパン生地の状態や製造工程における変化について、英文雑誌に3報の論文を公表した。以上の成果をまとめると、本年度の論文発表業績は計6件(うち英文誌5件)、学会発表は計5件となっている。
1: 当初の計画以上に進展している
3年間の研究計画の柱は大きく以下の4つである。1)励起・蛍光マトリクスによるパン生地中のグルテン分布の可視化および定量化、2)携帯画素解析による焼成パンの「すだち」の定量化、3)焼成パンの粘弾性パラメータの計測および官能評価、4)パンのおいしさ予測モデルの開発、がそれである。以上のうち、1)2)および3)のうち焼成パンの粘弾性パラメータの計測についてはすでに終了しており、原著論文に公表した総数は22年度に11報、23年度に6報の計17報となっている。また、当初の研究計画では小麦粉製品としての焼成パンのみをターゲットとしていたが、近年の国内における食料自給率の向上にむけての機運にも恵まれ、米粉パンやお粥パンといった新規な製品開発のための基礎データの取得から論文公表まで達成していることから、当初の計画以上に進展していると判断した。官能評価の実施と同データをどのようにおいしさ予測モデルの開発に組み込むかが最終年度の課題である。
最終年度は、おいしさ予測モデルの開発に取り組む。また、本研究課題の終了後は、研究協力者である(独)農研機構食品総合研究所食品工学研究領域計測・情報工学ユニットの杉山純一ユニット長らと共同で農林水産省の実用技術開発事業に新規研究課題を申請し、基礎研究の成果を活用しつつ、より実用的な研究へと展開する予定である。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件)
J.Cereal Sci.
巻: 55 ページ: 15-21
10.1016/j.jcs.2011.09.002
Biosci.Biotechnol.Biochem.
巻: 76 ページ: 331-335
10.1271/bbb.110722
日本食品科学工学会誌
巻: 58 ページ: 244-252
10.3136/nskkk.58.196
Procedia Food Science
巻: 1 ページ: 563-567
10.1016/j.profoo.2011.09.085
巻: 1 ページ: 927-934
10.1016/j.profoo.2011.09.140
Biosci. Biotechnol. Biochem.
巻: 75 ページ: 2112-2118
10.1271/bbb.110342