研究概要 |
(1)フルクタン分解酵素遺伝子の発現様式の解明 チモシー由来フルクタン分解酵素遺伝子Pp6-FEH1の発現に対する低温応答を評価した結果、越冬前後の圃場(札幌)においては、積雪前のマイナス温度期における一過的な発現量の増加、およびフルクトースの増加が認められた。また人工条件下の幼苗において気温を4℃から一3℃に低下させると遺伝子発現量は3日で約40倍に増加した。これらのことからPp6-FEH1はセカンドハードニング(マイナス温度期の低温馴化)におけるフルクタン分解による耐凍性の向上に寄与している可能性が示唆された。 (2)フルクタン分解酵素遺伝子の発現誘導物質の同定 刈取り処理後のPp6-FEH1の遺伝子発現誘導におけるリン酸化シグナル伝達経路の関与を明らかにするため、MAPキナーゼ阻害剤であるUO126およびPP2K阻害剤であるオカダ酸を刈取り処理前後のチモシー幼苗に処理したが、Pp6-FEH1の発現量に処理の有無による有意な変動は認められなかった。 (3)フルクタン分解酵素遺伝子発現誘導に関わるプロモータ領域の同定 チモシーから単離したPp6-FEH1の候補プロモータ配列について、推定転写開始点からそれぞれ-186,-416,-696および-1035塩基をルシフェラーゼ遺伝子に接続したベクターを構築し、一過的発現によるデュアルレポータアッセイによりプロモータ活性の評価を行った。打ち込み効率の高かった播種後16-18日目の幼苗の第3葉を用いた試験の結果、-695bpが最も高い活性を示した。また、刈取り後の遺伝子発現を抑制するグルコースの有無による活性の有意差は認められなかった。刈取り処理後発現誘導に関与するプロモータ領域を同定するには、評価に用いる組織などさらに検討が必要であると考えられた。一方、低温(4℃)処理を行うと常温(22℃)と比較し-416,-696および-1035bpプロモータの活性は約2倍に増加し、-186bpでは処理間で有意差は認められなかった。-186bpと-416bpの間に存在する3つのCRT配列がPp6-FEH1の低温誘導に関与する可能性が示唆された。
|