我々は、インスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルを仲介するインスリン受容体基質(IRS)がmRNAと複合体を形成しているという事実を発見してきた。本研究では、我々が最近同定したIRS結合性mRNAの中から、細胞内シグナル伝達に関わるARF1やRACK1をコードするmRNAに着目し、これらの生理的意義を明らかにすることを目的としている。初年度は、まず、IRS-1を免疫沈降し、そこにARF1 mRNAやRACK1 mRNAが含まれることをRT-PCR法で確認した。興味深いことに、RACK1 mRNAについて、成熟型mRNAはIRSと相互作用せず、第2イントロンを含むpre-mRNAが相互作用していることを見出した。RACK1遺伝子の第2イントロンにはU96A small nucleolar RNA(snoRNA)をコードする配列が含まれている。そこで、IRS-1がU96Aとin Vltroで直接相互作用することをゲルシフトアッセイで確認し、更に、IRS-1の免疫沈降物からRNAを抽出しU96Aをノザンブロットで検出することにより、細胞内でも相互作用していることを確認した。一方、IRS-1を過剰発現するとU96Aが増加し、IRS-1ノックアウトマウス由来の胚性線維芽細胞ではU96Aが減少していることを見出した。IRSとmRNAスプライシング関連因子が相互作用しているという我々の最近の知見を併せ、IRSはRACK1 pre-mRNAのスプライシングを促進し、U96Aの産生を誘導する可能性が考えられた。U96Aを含むsnoRNAはリボソームの成熟・活性化に関与すると考えられており、IGFに応答したタンパク質合成制御の全く新しい機構を解明できると期待している。また、ARF1 mRNAに関しても、IRSによるRNA制御の解析を鋭意進めている。
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