研究概要 |
我々は、インスリンやインスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルを仲介するインスリン受容体基質(IRS)がmRNAと複合体を形成していることを明らかにしてきた。本研究では、我々が最近同定したIRS結合性mRNAのうち、細胞内シグナル伝達に関わるARF1やBcl-2をコードするmRNAに着目し、このIRS-RNA複合体の生理的意義の解明を目的としている。 本年度の研究では、まず、IRS-RNA複合体の中に翻訳開始因子eIF4E,eIF4Gなどが含まれていることがわかり、IRSが翻訳中のリボソームと相互作用していると結論した。また、IRS結合タンパク質として新たにG3BP1を同定し、G3BP1が分子内にmRNA認識モチーフを有し、IRSとmRNAの相互作用を仲介するアダプタータンパク質であることを明らかにした。G3BP1は、mRNAの途中に存在してリボソームの導入を可能とする配列(IRES)を認識する。そこで、Bcl-2mRNAに存在するIRESに着目して解析を進めた結果、IRS-1の発現抑制によってこのIRESを介した翻訳が抑制され、Bcl-2タンパク質が減少した。更に、IRESを含むことが知られているc-myc,IGF-I receptor,cyclin D1,XIAPのmRNAもIRS-1と相互作用していることがわかった。以上から、「IRSはG3BP1を介して一部のmRNAのIRESに相互作用し、これらの翻訳を調節する新機能を有している」と結論した。 初年度の結果を併せ、IRS-RNA複合体は、タンパク質合成において、(1)small nucleolar RNA (snoRNA)の生合成を促進してリボソームの成熟・活性化を進める、(2)IRESを介したmRNAの翻訳を調節する、という多面的な生理的意義を有している可能性を世界で初めて示すことができた。
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