牛ウイルス性下痢ウイルス株内に混在する生物性状が異なるウイルスの自然免疫制御の相異とウイルス間相互反応が関与すると考えられる持続感染性の分子基盤を解明することを目的として、それらウイルスを感染させた細胞のウイルス干渉能力と抗クイルス作用関連因子のmRNA解析を行った。まず、細胞変性効果を示さないウイルス株の中から、ニューカッスル病ウイルス(NDV)の増殖を増強し、水胞性口炎ウイルス(VSV)の増殖を干渉しないE^+ウイルスと、VSVの増殖を干渉するE-ウイルスを単離し、クローニングによってそれぞれを純化した。培養細胞1個あたりウイルス1粒子が感染するように各ウイルスを牛精巣細胞に接種し、感染細胞内のインターフェロン(IFN)産生に関与するmRNA量を経時的に測定するとともに、VSV干渉能力の持続性を経日的に観察した。その結果、E-ウイルス接種6時間後から、Mx-1、OAS-1、bISG15などの抗ウイルス作用関連因子のmRNA量が顕著に増加したが、IFN-βやIFN調節因子IRF-3のmRNA量は陰性対照と同等レベルであることがわかった。また、E-ウイルス感染細胞は少なくとも14日間に亘ってVSVの増殖を強固に干渉した。E^+ウイルス感染細胞における抗ウイルス作用関連因子のmRNA量は陰性対照のそれと変わらず、重感染したNDVの増殖を増強し、VSVを干渉しなかった。以上より、牛ウイルス性下痢ウイルスの同一株内に自然免疫制御能が相反するウイルスが混在することが明らかとなり、それらの混在比とウイルス間相互反応が持続感染性や宿主の免疫等に影響を及ぼす可能性があることが明らかとなった。また、E^-ウイルスが誘導する抗ウイルス作用にIFN非依存性の経路が存在する可能性もあると考えられた。
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