非細胞病原性の牛ウイルス性下痢ウイルスは、宿主細胞のインターフェロン誘導性遺伝子群(ISGs)の発現を抑制するウイルスと、強く誘導するウイルス(準種)の両方を含むウイルス集団であること、持続感染牛が致死性の粘膜病を発症したときに体内に出現する細胞病原性ウイルスはISGsを誘導するウイルス(準種)であることを明らかにした(平成22年度本研究成果)。また、それら準種の混在程度によって宿主細胞の抗ウイルス活性も様々に変動することが判明し(平成23年度本研究成果)、ウイルス株を構成する準種の量的変動が複雑な病態に関与している可能性が推察された。一方、初めに感染したウイルスが後から感染する同種ウイルスの生物現象の発現を阻止する同種干渉が古くから知られるが、抗ウイルス活性を抑制する準種も同種干渉を示すという矛盾が生じ、ウイルス-宿主相互反応に別のメカニズムが存在する可能性が予想された。そこで、本研究で確立したウイルス遺伝子型識別定量的RT-PCR法(平成23年度本研究成果)を応用して同種干渉におけるウイルス複製及びISGsの発現を解析した。その結果、後から感染するウイルスに特有の生物現象は阻止(干渉)されるが、そのウイルスの細胞内侵入とウイルスRNA複製は成立し、抗ウイルス活性も起動していることが判明した。また、準種を用いたリバースジェネティクス系を確立するとともに、抗ウイルス活性の制御に4種類のウイルス蛋白のいずれかが関係している可能性が高いことが分かった。 牛ウイルス性下痢ウイルス感染および持続感染の病態は、同種ウイルスであるが抗ウイルス活性制御の異なる準種の重感染を許容することによる自然免疫の失調が関与している可能性があると推察された。また、自然免疫制御や病原性の解明にリバースジェネティクス系の利用が有効であることが確認された。
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