本研究は、マウスの精子形成を支える精子形成幹細胞の特定を目的としている。平成22-23年度において、in vivoライブイメージング法を用いて、幹細胞候補と考えられたGFRα1を発現するAsingle型未分化型精原細胞(As)が、細胞分裂時の不完全分裂によって娘細胞同士が細胞間橋で連結したApaired(Apr)やAalinged(Aal)と呼ばれる合胞体構造になること、そして失われたAsは合胞体(AprおよびAal)の細胞間橋の断片化によって新たに補われることを明らかにした。以上の結果は、形態的に不均一なGFRα1+ As、Apr、Aalが分裂に伴う合胞体の伸長と断片化を繰り返しながら集団として維持される可能性を示唆するものであった。しかし、技術的な限界から、ライブイメージングは個々の細胞を2-3日間しか連続観察することができず、同法だけでは長期間の幹細胞機能の実験的検証は不可能である。これに対し、平成23年度にはGFRα1+ As、Apr、Aal集団を標識し、その運命を追跡する系を確立した(パルスラベル法)。平成23-24年度においては、同法を利用して、GFRα1+ As、Apr、Aal集団が、長期間の精子形成を支える幹細胞集団であるか否かを検証した。その結果、同細胞集団は、確かに、1年以上の間、自己複製しながら精子生産を継続する集団であることが示された。 以上の3年間の結果から、マウスの精子形成幹細胞は、GFRα1遺伝子を発現したAs、Apr、Aalによって構成される細胞集団であるという結論を下すに至った。目標としていた生体内における精子形成幹細胞の特定を十分に達成することができたものと考えている。同知見は、畜産動物・ヒトにおける幹細胞制御機構の理解の基盤を提供するものである。
|