研究概要 |
脳由来神経栄養因子(BDNF)はグルタミン酸(Glu)誘導性神経細胞死を促進することが報告されている。メチル水銀(MeHg)には,Gluの神経毒性発現機序と同じく,内因性抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)減少が関与する。そこで,本年度は,BDNFのMeHg誘導性神経細胞死促進作用の機序を解明することを目的として,BDNFによるMeHg誘導性神経細胞死促進作用とGSH減少との関連性の検討を目的として実験を行った。ラット小脳神経細胞初代培養細胞(CNs)を用いて,二日の前培養後,BDNF,MeHg,Glu及びGSH合成阻害剤ブチルスルフォキシド(BSO)を処理し,細胞生存率および細胞内GSH量を測定した。MeHg,BSO,Glu処理により有意に細胞生存率が減少し,BDNFの共処理によりさらに減少した。MeHg,Glu,BSO単独処理群の細胞内GSH量は,いずれも対照群に比べて有意に減少し,BDNFとの共処理群では,GSH量はさらに減少した。 BDNFは受容体TrkBを介して作用し,BDNFによるMeHg誘導性神経細胞死促進作用もTrkBを介する(Sakaue et aL.,2009)。従って,上記のGSH量測定に加えて,このBDNFの細胞死促進作用に関与するTrkB下流の細胞内シグナル伝達系を明らかにするため,MAPK系およびPI3/Akt系の関連についてそれぞれErk1/2およびAktのリン酸化状態をwestern blot法で検討した。BDNF処理によりErk1/2およびAktのリン酸化が亢進したが,BDNFによるMeHg誘導性神経細胞死促進作用を説明する結果とはならなかったことから,他の細胞内シグナル伝達系の関与が考えられた。以上のことから,BDNFによる神経細胞死促進作用にはBDNFによる細胞内GSH量減少の促進が関わる可能性が示唆された。
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