研究概要 |
BDNFのメチル水銀(MeHg)誘導性神経細胞死促進作用の伝達経路の解明のため,昨年度に引き続き,「(2)BDNFにより促進される細胞死に共通する細胞死誘導機序への影響の検討」,そして「(3)BDNFに関わる細胞内シグナル伝達系の同定」を検討した。 (2)共通する細胞死誘導機序へのBDNFの影響の検討 MeHg誘導性細胞死にはアラキドン酸の増加が関与することから,アラキドン酸を分解しGSHを減少させる12-1ipoxygenase(12LOX)活性化がBDNFによるMeHg神経細胞死促進作用に関与するかを,12LOX阻害剤を処理して検討したが,変化は見られなかった。 (3)BDNFの細胞内シグナル伝達系の同定 BDNFによるMeHg誘導性細胞死促進作用に対してPLC阻害剤U73122を処理しても影響を示さなかったことから,PLCとの関連性はないと思われた。グルタミン酸受容体であるNMDA受容体のアゴニストNMDAによる神経細胞死をBDNFが促進する報告があることから,本研究における小脳顆粒細胞初代培養細胞でも検討した。NMDAにより細胞死が誘導されNMDA受容体阻害剤MK801で抑制されたが,BDNFはその細胞死を促進しなかった。MeHg誘導性細胞死およびBDNFによる促進作用は,MK801で抑制された。GSH量では,MK801がMeHgによる減少を抑制したが,BDNF処理による減少を抑制しなかった。BDNFによるMeHg誘導性神経細胞死への促進作用およびGSH減少作用は,シグナル伝達系のうちMAPK系の阻害剤UO126の処理により抑制されたが,同じく搬PK系阻害剤であるPD98059処理では抑制されなかった。 MeHgによる細胞死とGSH減少にはNMA受容体が関与するが,BDNFの細胞死促進作用およびGSH減少にはNMA受容体は関与せずUO126が関わる何らかの因子が関与すると思われた。
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