牛筋血管周皮腫(MPC)を世界で初めて診断し、その組織学的特徴や発生の疫学が人MPCと類似することを明らかにした。人MPCの原因は不明であるが、牛MPCの発生には牛パピローマウイルス1型(BPV-1)の感染が関与することが強く示唆された。 牛MPC病変から検出されるBPV-1には、そのゲノムの初期遺伝子領域に変異型E2がコードされていた(E2の本来の機能は転写調節タンパクである)。したがって既報のBPV-1と異なる変異型E2によって、感染細胞における転写制御が行われていると考えられる。 そこで、MPC形成の分子メカニズムを明らかにするため、BPV-1感染細胞内における変異型E2の動態を解析した。ほ乳類細胞中での動態を蛍光顕微鏡で観察したところ、細胞質で発現したE2がN末端側配列の働きによって核内に移行することがわかった。 次にE2と細胞内で相互作用する分子を探索したところ、人のTax1BP1タンパクに相同性を持つ牛の細胞内因子bTax1BP1と複合体を形成することがわかった。この複合体形成に、E2のN末端側1-220アミノ酸残基が重要な役割を果たしていた。bTax1BP1は非感染細胞の細胞質内に存在するタンパクであるが、感染細胞中でE2と複合体を形成することによって核内に移行し、BPV-1のウイルスプロモーター領域にリクルートされ、E2と協調的に転写調節を行っていると考えられる。 bTax1BP1はさらに牛白血病ウイルス(BLV)の癌タンパクTaxとも相互作用する可能性があるため、今後bTax1BP1によるウイルスの転写制御機構を調べることによって、MPC形成機序の解明のみならず、BPV-1とBLVとの重複感染による活性化機序の解明につながることが期待される。
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