健常犬の十二指腸および結腸における腸管型アルカリフォスファターゼ(iALP)遺伝子mRNA発現定量解析消化管内視鏡下粘膜生検によって、健常犬の十二指腸および結腸の粘膜組織を採取した。Total RNAを抽出し、cDNAを得たのち、犬iALP遺伝子mRNAを検出するために設計したプライマーを用いたリアルタイムPCRを行うことによって、各組織における犬iALP遺伝子mRNA量を定量解析した。その結果、十二指腸粘膜におけるiALP遺伝子mRNA量は結腸粘膜のそれよりも有意に多いことが明らかとなった。この結果を、前年度に得られた酵素組織化学によるiALP活性の結果と合わせると、iALPが犬においても十二指腸で多く発現し活性を有していることが明らかとなった。 消化器疾患群におけるiALP発現レベルおよび活性の解析、臨床的重症度との比較検討 消化管内視鏡検査を必要とした炎症性腸疾患(IBD)の症例犬について、内視鏡下粘膜生検によって十二指腸の粘膜組織を採取した。上記の方法と同様に、リアルタイムPCRを用いた犬iALP遺伝子mRNA量の定量解析を行った。また、前年度に確立した酵素組織化学の手技を用いて、症例の十二指腸粘膜組織におけるiALP活性を検討した。その結果、組織中の犬iALP遺伝子mRNA量が少なかった症例は、酵素組織化学で認められる活性反応も少なかった。特に病理組織学的な重症度が高い症例では、両者とも低値を示す傾向が強かった。一方、疾患群には十二指腸粘膜組織における犬iALP遺伝子mRNA量が健常群と変わらないものから低値を示すものまで幅広く認められ、今回集計した範囲では、平均的には健常犬群と統計学的有意差は認められなかった。次に、IBDの重症度と相関することが知られている臨床スコア(canine chronic enteropathy clinical activity index;CCECAI)と十二指腸粘膜の犬iALP遺伝子mRNA量を比較したところ、スコアの高い重度な症例ほど犬iALP遺伝子mRNA量が少ない傾向が明らかとなった。本研究結果は、犬のiALPが犬IBDの病態に関係しており、重症度や予後に関わる因子である可能性が示唆される重要な知見である。
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