研究概要 |
本研究は、これまでに確立した野生型およびアトバコン(ATV)耐性Babesia gisboni培養株を用いて、犬B.gibsoni感染症に対するATVを中心とした多剤併用療法の確立を目指すものである。本年度は両培養株の(1)ミトコンドリア機能についての解析、(2)分子生物学的な特徴の評価、(3)薬剤感受性の評価を実施した。 (1)両培養株のATP産生能についてルシフェラーゼ発酵法によって評価したところ、原虫増殖に伴うATP産生増加は確認されなかった。この結果は他の原虫においてこれまで報告された結果と異なるものであり、酸素濃度を含む培養条件の違いに起因する可能性が考えられる。そのためミトコンドリア機能についての新たな評価方法として、原虫ミトコンドリア酵素であるDehydroorotate dehydrogenase (DHODH)に着目し、液体クロマトグラフィーを用いた原虫由来DHODH活性の測定系を確立した。今後この測定系を用いて両培養株におけるDHODH活性を比較する予定である。 (2)ATV耐性株におけるミトコンドリア遺伝子(COX1,COX3およびcytb)の塩基配列を確認した結果、cytbにおける一塩基多形(M121I)以外にアミノ酸置換を伴う遺伝子変異は確認されなかった。続いてallele-specificreal-time PCR法によるM121I原虫の定量法を確立した。これによる解析の結果、ATV耐性培養株におけるM121I原虫は約99%以上の割合で存在することが明らかとなった(論文投稿中)。 (3)両培養株に対する複数薬剤の感受性を評価した結果、ATVに対しては野生株の約6倍の感受性低下を示した。一方ジミナゼンアセチュレート、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、クリンダマイシン、プログアニルに対する感受性は野生株と有意な差は認められなかった。 今後は、両培養株におけるDHODH活性の評価、さらにATVを含む各種薬剤がこれに与える影響を評価する。その上でATVと他の薬剤を併用した場合の相互作用についてin vitroおよびin vivoで評価を実施する予定である。
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