腫瘍治療は主に外科的摘出や放射線治療による局所治療と化学療法に全身療法が柱となる。しかし、これらの治療法では取り除くことのできない微小残存病変が再発を引き起こすため、免疫療法などの補助治療が必要である。これまでに腫瘍免疫を高める様々な方法が試みられているが、実用化に至り大きな効果をあげている治療法が未だ存在しない。有効な免疫療法を確立するためには、腫瘍に特異的に発現する抗原を同定し、その抗原を認識し活性化する免疫担当細胞を誘導する必要がある。そこで多くの腫瘍に発現し、in vitroで強力な腫瘍免疫を誘導しうるWT1を腫瘍抗原としたワクチン療法と細胞障害性T細胞の抑制蛋白であるCTLA4を抑制するペプチド療法の併用による、より効果的な免疫療法の確立を目的とした研究を計画した。平成23年度には、犬WT1遺伝子のクローニングを行い、犬においても人で報告のあるアイソフォームが存在することを確認した。またさらに、犬の正常組織では、腎臓、脾臓、肺、乳腺といった限られた組織にのみ、弱い発現が認められるのみであったのに対し、自然発生腫瘍組織において犬WT1は広範に強く発現していることを明らかにした。これらのことより、犬の自然発生腫瘍においてWT1蛋白を標的とした免疫療法の有効性が示唆された。続いて、得られた犬WT1遺伝子の塩基配列より予測されるアミノ酸配列を基に、5種の犬WT1ペプチドを作成した。正常犬より分離した犬末梢血中単核球の培養液中に作成した犬WT1ペプチドを添加して、培養上清中のIFN-γをELISAにより測定したところ、溶媒のみ添加群と比較して有意な上昇は認められなかった。
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