研究課題/領域番号 |
22780285
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高野 友美 北里大学, 獣医学部, 講師 (20525018)
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キーワード | コロナウイルス / 猫伝染性腹膜炎 / 抗体療法 / TNF-α |
研究概要 |
2003年、重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生によりコロナウイルスの研究は目覚しく進歩した。コロナウイルスを病原体とする猫伝染性腹膜炎(FIP)においてもその研究の発展が著しい。しかし、FIPに対する効果的な治療法の開発には至っていない。近年、FIPの病態悪化にはTNF-αが深く関与することが報告されている。昨年度、我々は抗猫TNF-αモノクローナル抗体(抗TNF抗体)の中和能を確認した。その結果、抗TNF抗体は組換え猫TNF-αのWEHI-164細胞に対する傷害活性を80~95%抑制することを確認した。また、抗TNF抗体はTNF-αによる好中球の増加およびウイルスレセプターの増加を抑制できることも明らかにした。さらに、抗TNF抗体はTNF-αによる血管内皮細胞透過性の増加を抑制し、好中球エラスターゼの産生も抑制できる可能性も明らかにした。以上を踏まえると、我々が作出した抗TNF抗体はFIPの治療に応用できる可能性が高いと考えられた。本年度は、抗TNF抗体の中和活性および反応性を詳細に検討した。その結果、9種類の抗TNF抗体のうち、組換えTNF-αおよび天然型TNF-αの両方を認識したTNFA2-4において非常に高い中和活性が認められた。この結果を踏まえ、TNFA2-4を治療用製剤として用いることに決定した。しかし、本抗体はマウス由来の抗体であるため、猫に複数回投与した場合に本抗体に対する抗体が産生されて中和作用を減退させる可能性が想起された。そこで、我々はTNFA2-4の治療効果の減退を最小限にするため、本抗体をペプシン処理して分子量の低いF(ab')2にした場合でも中和活性を維持できるか否かを検討した。その結果、F(ab')2にした場合でも、TNF-α活性を十分に中和することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はFIPの治療に応用可能な抗TNF抗体の開発を目的としている。本年度までに、特に大きな障害もなくFIPの治療用製剤として応用できる抗TNF抗体(TNFA2-4)のスクリーニングに成功した。TNFA2-4は高い中和活性と共に、組換えTNF-αおよび天然型TNF-αの両方に反応することから、今後、本研究の枠を越えて様々な研究に応用できることが期待される。また、本年度までに猫TNF-αを検出する新たな測定系を樹立する予定であったが、従来のバイオアッセイの改良に成功し、簡易的かつ感度の高い測定系を開発することができた。来年度は、本年度までの成果を踏まえて、FIP発症猫に対する抗TNF製剤の治療効果を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までにFIPの治療用製剤として応用可能な抗TNF抗体を選出することが出来た。今後は、FIP発症猫を実験的に作出し、実際に抗TNF抗体を投与して治療効果が得られるか否かを検討する。しかし、猫では抗TNF製剤を用いた治験は全く行われたことがないため、投与量について検討する必要がある。そこで、他の文献に基づき、TNF-αを誘発するエンドトキシンをネコに投与して炎症を誘導し、抗TNF抗体で生体内におけるTNF-αの活性を抑制できるか否かを検討する。LPSの投与量および投与方法はDeClue et al.の論文(2009.Vet.Immunol.Immunopathol.132:167-174)を参考に行う(本論文はNIHで定められた実験動物のガイドラインに従って実験が遂行されている)。LPSの投与実験を行うと、実験に使用する猫の頭数が若干増えることは否めないが、治療効果の有無を確実に判断するためには必要最小限の実験と判断した。
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