2003年、重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生によりコロナウイルスの研究は目覚しく進歩した。コロナウイルスを病原体とする猫伝染性腹膜炎(FIP)においてもその研究の発展が著しい。しかし、FIPに対する効果的な治療法は開発されていない。近年、FIPの病態悪化にはTNF-αが深く関与することが報告されている。TNF-αはFIP発症猫におけるリンパ球減少、好中球増加およびウイルスレセプターの増加に関与することが示唆されている。最近、我々は猫TNF-αに対するモノクローナル抗体を作出した。この抗体を用いてTNF-αの作用を制御できれば、FIPの病態悪化も抑制できると考えられる。本年度は、抗猫TNF-αモノクローナル抗体の中和能を確認した。その結果、本モノクローナル抗体は組換え猫TNF-αのWEHI-164細胞に対する傷害活性を80~95%抑制することが確認できた。本抗体の中和効果はF(ab')2にした場合でも失われないことを確認した。また、本抗体はTNF-αによる好中球の増加およびウイルスレセプターの増加を抑制できることも明らかになった。さらに、本抗体はTNF-αによる血管内皮細胞透過性の増加を抑制し、好中球エラスターゼ(NE)の産生も抑制できる可能性も示唆された。以上を踏まえると、我々が作出した抗体はFIPの治療に応用できる可能性が高いと考えられた。しかし、本抗体はマウス由来の抗体であり、猫に複数回投与すると本抗体に対する抗体が産生され、その結果、中和作用を減退させる可能性が想起される。今後はキメラ抗体を作製して今回と同等の結果が得られるか否かを検討する必要がある。
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