本研究では犬における自然発症の脊髄損傷症例に対する嗅粘膜由来嗅神経鞘細胞(OECs)自家移植療法のphaseI(安全性評価)そしてphaseII(有用性の評価)trialを目的とし、OECs移植による脊髄再生療法の臨床治験を試みた。しかし症例選択法、移植手技や方法の改善にも関わらず、当該年度においても症例選択基準をクリアした適応症例が少なく、また飼い主の同意を得られなかったため、実際にOECs移植による臨床治験を実施することはできなかった。そこで1、経皮電極に設置によるmotor evoked potential(MEP)測定。2、硬膜外カテーテル法による犬のsomatosensory evoked potential(SEP)測定、さらに3、脊髄疾患の予後判定法として脳脊髄液中タンパク質の解析が有用か検討を行った。1に関しては5頭の健常犬ならびに脊髄損傷症例において実施したところ、実際にMEPを測定でき、機能判定に用いることが判明した。2に関しては手術時に測定可能か判定したところ、SEPを術中に測定することが判明し、手術による脊髄への障害の有無・程度を評価するとともに、予後判定法に用いることができる可能性が示唆された。3に関しては前年度から研究を継続しており、予後判定が困難である重度椎間板ヘルニア症例に加えて、変性性脊髄症や脊髄再生療法の対象になる多くの脊髄疾患においても脳脊髄液中タンパク質であるmyelin basic protein(MBP)ならびにneuron spectic protein(NSE)測定が予後診断法として有用であることが示唆された。重度の麻痺を呈する症例においてMBPならびにNSE値が高値を示す症例は予後不良であることが判明した。これらのことにより、重度の麻痺を呈する症例でこれらのタンパク質が高値を示す場合、脊髄再生療法の適応症例となりうることが示唆された。さらに1の検討によって犬においても運動機能解析を行うためのMEP測定が経皮的に実施できることが証明され、移植後の運動機能の評価に用いることができることが判明した。
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