本研究課題では、細胞膜マイクロドメイン領域における SYT1の分子相互作用と、凍結下における細胞膜修復との関係を明らかにすることを目的とする。昨年度は、比較的強力な界面活性剤であるオクチルグルコシド(OTG)を用いて細胞膜画分に対し可溶化およびanti-SYT1抗体による免疫沈降を行い、1次元電気泳動後、それぞれのバンドに対しLC-MS/MSにかけた。しかしコンタミネーションが多く信頼性の欠ける結果となった。本年度は、OTGよりも強力な界面活性剤であるリソフォスファチジルコリン(LPC)も加えて解析を行った。低温馴化前後のシロイヌナズナより細胞膜画分を回収した後、OTGもしくはLPCを用いて可溶化を行い、その後、anti-SYT1抗体による免疫沈降を行った。次に、コンタミネーションを避けるため、LC-MS/MSによるショットガン解析を行った。その結果、マイクロドメインタンパク質が多数同定された。さらに、低温馴化後のLPC画分のみに見られたタンパク質として、チューブリンやアクチンなどの細胞骨格や小胞輸送に関与するRABが存在していた。一方、細胞膜修復には必ず膜の融合装置であるSNAREタンパク質が必要となるが、プロテオーム解析においては、SNAREタンパク質は検出されなかった。そこで、これらの関与も考察するために、VAMP721、VAMP722、VAMP723、および、SYP122のT-DNA欠損株を用いて、カルシウム依存的凍結耐性および植物体レベルでの凍結耐性を測定した。その結果、VAMP721およびSYP122に関しては、細胞膜修復に関与する可能性を示す結果が得られた。次に、凍結下における細胞膜修復を明らかにするためには、細胞内における凍結動態を明確に観察できる系が必要となる。そこで、細胞観察の行いやすいネギでカルシウム依存的凍結耐性を確認した後、観察系を確立した。
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