ヨウ素欠乏症は世界で最も深刻な微量栄養素欠乏症の一つである。先進国では入手可能なヨウ素添加食塩は、社会基盤の未整備等の原因から多くの開発途上国では入手が困難で、約20億人が十分量のヨウ素を摂取できていないとの報告もある。本研究は、作物を通じてヨウ素栄養を普及させるための、高ヨウ素栄養植物の開発を最終目的としている。平成22年度の研究成果として、モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の遺伝的改変により、植物体におけるヨウ素含量を10倍以上、上昇させることに成功している。このヨウ素含量を上昇させたシロイヌナズナは野生型シロイヌナズナと形態の違いは観察されず、通常条件で正常に生育した。また、ヨウ素含量を上昇させたシロイヌナズナと野生型シロイヌナズナにおいて、培地中のヨウ素の化学形態や濃度が植物体のヨウ素蓄積に与える影響や、ヨウ素蓄積の部位特異性を解析し明らかにした。遺伝的改変により植物のヨウ素含量を上昇させた報告はまだなく、本研究により得られた知見は高ヨウ素栄養植物の開発において重要であると考えられる。また、本技術をモデル植物であり、アジアの主要作物であるイネに応用するために、シロイヌナズナと同様の遺伝的改変を行ったイネ(Oryza sativa)の作製に取組んだ。この遺伝的改変を行ったイネにおいても、野生型イネとの形態の違いは観察されず、通常条件で正常に生育した。作製した改変イネについては、次年度以降に解析するための十分量の種子を得た。
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