研究課題/領域番号 |
22780302
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
中村 達夫 横浜国立大学, 環境情報研究院, 准教授 (50334636)
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キーワード | 植物 / ヨウ素 / 生理学 / 遺伝子 / 栄養 |
研究概要 |
ヨウ素欠乏症は、ビタミンA欠乏症、鉄欠乏症と並び、世界で最も深刻な微量栄養素欠乏症の一つである。先進国では入手が容易なヨウ素添加食塩は、インフラの未整備などの原因から多くの開発途上国では入手が困難である。世界で約20億人が十分量のヨウ素を摂取できていないとの報告もある。本研究は、作物を通じてヨウ素栄養を普及させるための、高ヨウ素栄養植物の開発を最終目的としている。平成22年度の研究成果として、モデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のAtHOL遺伝子を改変することにより、植物体におけるヨウ素含量を上昇させることに成功している。また、シロイヌナズナと同様の遺伝的改変を行ったイネ(Oryza sativa)の作製を行い、解析に必要な種子を得ている。平成23年度の研究成果として、ヨウ素代謝に関与すると考えられるシロイヌナズナとイネのHOL遺伝子について、大腸菌を用いて融合タンパク質を作製し、精製した融合タンパク質を用いて反応速度論的解析を行った。その結果、あるHOLタンパク質アイソフォームが、ヨウ化物イオンに対して高いメチル基転移酵素活性を示すことを明らかにした。これは、HOLタンパク質が広く植物のヨウ素代謝に関わることを示唆するとともに、HOL遺伝子の改変によるさまざまな植物の高ヨウ素化の可能性を示唆した。また、作製した遺伝子改変シロイヌナズナと遺伝子改変イネにおいて、培地中ヨウ素の化学形態や濃度が、ヨウ素動態(蓄積するヨウ素の化学形態や部位特異性など)に与える影響の詳細について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネの遺伝子破壊株の単離は、本研究計画の最も困難な課題と予想していたが、イネの2個のアイソフォーム(OsHOL1、OsHOL2)の両方についてTos17トランスポゾン挿入株が得られ、二重変異体の作製も順調に進行している。また、シロイヌナズナとイネにおいて、ヨウ化物イオンに対する活性の高いHOLタンパク質を特定することができたことからも、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
高ヨウ素含量植物の作製技術をさらに改良するための研究を継続する。そのために不可欠な基礎的知見として、未だ十分に理解されていない植物のヨウ素代謝を分子生理学的な解析により明らかにする。本研究で開発する技術を実用化するためには、さまざまな専門知識・技術が必要になると予想されるため、共同研究等を通じて協力を得る。
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