本研究では、ラクダ抗体の多様性をADLib法によって増大させるために、V(D)J組み換えが起きたラクダ抗体遺伝子座をニワトリDT40細胞内にクローニングする必要があった。前年度までは主にラクダ抗体遺伝子座を搭載したヒト人工染色体を導入したキメラマウスから、ハイブリドーマ法を適用することによって、ラクダ抗体遺伝子座のV(D)J組み換えを起こしたヒト人工染色体を回収することを試みたが成功しなかった。そのため、本年度は改良型の人工染色体を用いた追試を行う一方、別法として、ラクダ抗体遺伝子座を含むラクダの自然染色体上で直接V(D)J組み換えを起こさせる方法を試みた。具体的には、抗体遺伝子座の再構成においてV(D)J組み換えを担うタンパク質であるRAG遺伝子を強制的に発現し、DT40細胞内でV(D)J組み換えを誘導するものである。 これを実施するために、まずニワトリDT40細胞内にラクダ抗体遺伝子座を含むラクダ染色体を導入したクローンを樹立した。一方、V(D)J組み換えを培養細胞系で誘導したという報告は今までになく、本研究では、V(D)J組み換えに必須の組み換えシグナル配列を配したモデルプラスミドを作成し、組み換えの効率をモニターできるシステムをラクダ染色体を含むニワトリDT40細胞中で構築した。このモデルではニワトリゲノム中に挿入されたプラスミド領域内でV(D)J組み換えが起きた場合、GFPタンパク質が発現するようになっているため、V(D)J様の組み換えが起きたことをGFP細胞の陽性率で評価することができる。それを指標に組み換えを誘導した結果、GFP陽性細胞がわずかながら認められた。その細胞を回収し、ラクダ抗体の発現を解析したところ、GFP陽性でありながらも、ラクダ抗体の発現は認められなかったことから、ラクダ染色体の抗体遺伝座における組み換えを誘導できなかったことが示された。
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