プロテオミクス分野における最も重要な基盤技術の一つとして、プロテオーム中標的蛋白質の精製および選択的ラベル化技術が挙げられる。蛋白質精製において、ビオチン修飾蛋白質のアビジンカラムによる精製が汎用される。しかし本方法では多くの場合、精製後の標的蛋白質に非特異的吸着由来の蛋白質が混入する。このため、カラム溶出液中の標的蛋白質のみを選択的にラベル化することは困難を極める。さらにビオチン-アビジン間の結合は強固なため、アビジンカラムからのビオチン修飾蛋白質の回収効率は低い。 本研究ではこれら問題を解決するため、プロテオーム中にある標的蛋白質の高効率的精製およびラベル化を可能どするRecapturableリンカーの開発を目的とした。Recapturableリンカーとは任意の条件下で切断され、その結果生じる官能基を足掛かりとして再び機能性ユニットの導入が可能なリンカーと定義する。本研究では、ビオチンと標的蛋白質結合部位の間にクリックケミストリーを用いて当該リンカーを導入し、標的蛋白質をアビジンカラムにより精製したのち、フッ素アニオンによるリンカー切断を経て標的蛋白質の高効率的回収を達成すると同時に、切断の結果生じる官能基を利用して標的蛋白質選択的にアルデヒド含有ラベル化試薬を導入する方法論の開発を目指す。 申請者は昨年度、当該リンカーの合成に成功した。そこで今年度は、小分子を用いたモデル実験および精製蛋白質を用いたモデル実験を行った。この結果、当該リンカーのモデル小分子とのクリックケミストリー、フッ素アニオン処理によるリンカーの切断、および切断成績体のアルデヒド含有試薬による修飾に成功した。さらにアルキニル化モデル蛋白質の調製に成功するとともに、これへの当該リンカーの導入およびアビジンカラムへの吸着に成功した。
|