金化合物は永らく触媒として不活性と考えられてきたが、炭素-炭素多重結合に対する高い親和性の発見を契機に、近年、有機合成化学の分野において劇的な広がりを見せている。その反面、高価さと希少性が問題であり、金化合物を最大限の効率で利用することが重大な課題となっている。金化合物の固定化はこれまで、金クラスターを酸化金属や高分子などの担体表面へ分散・固定化するものが主流であった。これらはアルコールの酸化反応に利用されただけで、結合形成反応を効率的に促進する、リサイクル可能な固定化金触媒は例が無かった。そこで本申請研究では、高活性な固定化金触媒を創製し、効率的なドミノ型反応との組合せにより、環境に低負荷な複素環合成法に発展させることを目的とした。 平成22年度の研究では固定化金触媒の開発を重点的に行い、以下の成果を得た。 1)ホスフィン配位子を含むスチレン型ポリマーに活性な金成分(Au^+)を固定化した触媒の合成に初めて成功した。本触媒は、従来の均一系触媒(Ph_3PAu^+OTf-)とほぼ同等の高い触媒活性を示し、結合形成反応を起こすことを見出した。例えば、0.005当量の固定化金触媒を用いて、分子内にアルキニル基を有するジオール及びアミン化合物の分子内環化反応を行うと、有機合成上有用なフランやピロールが高収率で得られた。 2)本固定化触媒は、金成分の漏出が殆どない高い安定性を有していること、デカンテーション操作によりほぼ定量的に回収できることが分かった。また、回収した触媒は7回まで再利用することができ、フランを高収率で合成することができた。 3)固定化カチオン性金触媒を充填したフローリアクターによる実用的な環境低負荷型合成法を開発した。
|