研究概要 |
有機合成において、中間体を単離することなく、途中で反応剤を加えず、同一の反応条件で異なる反応を連続的に行う反応をカスケード反応と呼ぶ。カスケード反応は、複数の反応を1段階で行うために工程数が短縮でき、中間体の単離・精製に関する手間やコストを削減できる。本研究は、単純な直鎖状の分子構造からo-キノジメタンの生成、6π-電子環状反応、続く分子内Diels-Alder反応を経て複雑なtricyclo[3.2.1.0^<2,7>]octane構造へとわずか1段階で変換するカスケード反応を開発し、その反応を鍵段階とした抗腫瘍性物質Salvileucalin Bの効率的な合成法を確立することを目的とする。 申請者は単純な直鎖状の分子骨格からtricyclo[3.2.1.0^<2,7>]octane骨格へと1段階で変換する新規カスケード反応の開発を試みた。モデル化合物を用いてカスケード反応の検討を行ったところ、o-キノジメタンの生成後、望む6π-電子環状反応ではなく8π電子環状が進行した化合物が得られた。立体的な効果を利用した幾何異性体制御により8π電子環状を抑制しようと試みたが、8π電子環状を制御することは出来なかった。しかしながら、o-キノジメタンの生成、8π電子環状というカスケード反応は当初目的としていた反応ではなかったが、5-8-6や6-8-6などの縮環化合物合成への展開が期待でき有用である。 カスケード反応によるtricyclo[3.2.1.0^<2.7>]octane骨格の構築は達成できなかったが、歪んだtricyclo[3.2.1.0^<2,7>]octane骨格を分子内Diels-Alder反応により構築することは有機合成化学上意義深い。現在、分子内Diels-Alder反応によるtricyclo[3.2.1.0^<2,7>]octane骨格を検討中である
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