有機合成において、中間体を単離することなく、同一の反応条件で異なる反応を連続的に行う反応をカスケード反応と呼ぶ。カスケード反応は、複数の反応を1段階で行うために工程数が短縮でき、中間体の単離・精製に関する手間やコストを削減できる利点を持つ。本研究は、単純な直鎖状の分子構造からo-キノジメタンの生成、6π-電子環状反応、続く分子内Diels-Alder反応を経て複雑なtricyclo[3.2.1.0^<2.7>]octane構造へとわずか1段階で変換するカスケード反応を開発し、その反応を鍵段階とした抗腫瘍性物質SalvileucalinBの効率的な合成法を確立することを目的に開始した。 昨年度、単純な直鎖状の分子骨格からtricyclo[3.2.1.0^<2.7>]octane骨格構築を意図してカスケード反応の開発を試みたところ、o-キノジメタンの生成後、望む6π-電子環状反応ではなく8π電子環状が進行した化合物が得られるということを発見した。23年度、申請者はこの8員環形成反応を有機合成化学的に有用なものにするべく、o-キノジメタンを生成する際の脱離基、フッ素源、反応溶媒、反応温度ならびに反応濃度等の反応条件を種々検討することにより反応効率を高めることに成功した。この方法は、従来の8員環形成反応では合成が難しい基質に対しても適用可能である。生理活性天然物には5-8-6や6-8-6などの縮環化合物合成が存在する。本手法はそのような生理活性天然物合成への展開が期待でき有用である。 また、分子内Diels-Alder反応によるtricyclo[3.2.1.0^<2.7>]octane骨格構築を基盤とした抗腫瘍性物質Salvileucalin Bの合成についても併せて検討中である。
|