研究概要 |
「有機合成反応の高度な効率化」を目指し,前年度からの研究を精力的に展開した. まず,炭素酸の化学では,テトラキス(トリフルオロメチルスルポニル)プロパンが,溶液中,逆Michael反応を起こすことを見つけ,NMRを用いて,この反応の平衡定数や標準Gibbsエネルギー変化などを定量化した.この知見を踏まえて,種々のフェノールやアリールエーテルに対して,ビス(トリフルオロメタンスルポニル)メチル基を効率よく導入する手法を開発し,ベンゼン骨格上に複数の炭素酸部位を持つ化合物を合成した.得られた多価炭素酸については,様々な有機合成反応において触媒活性の評価を行い,フログルシノールより得た三価炭素酸が,エステル化反応や,アセタール化反応,Mukaiyamaアルドール反応などの優れた触媒となることを見い出した. 一方,インジウムLewis酸を用いた多成分反応として,アルデヒド,イソシアニド,脂肪族アルコールおよびトリメチルシリルアジドの新規四成分反応の基質適用範囲を明確にすると共に,環状アセタールを用いた分子内型反応の開発に成功した.本系では,環状アセタール基質に対して,イソシアニドのみを作用させると環状エーテル構造を持ったアミドが得られたのに対し,イソシアニドとトリメチルシリルアジドを作用させるとテトラゾールが選択的に得られた. さらに,ビス(トリフルオロメチルスルポニル)メタンが強酸であることに着目し,自身が酸触媒であると同時に反応基質となる新しい自己促進的な三成分反応を開発した.この成果は,炭素酸を用いた自己促進的な多成分反応が実現できることを意味しており,本研究の一層の進展をもたらす知見である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,(1)高活性な酸触媒の開発と(2)温和な酸触媒を活用した多成分反応の開発を主眼としている.既に,極めて高活性な有機酸触媒として多価炭素酸を見い出し,インジウムLewis酸を温和な酸触媒として用いる幾つかの多成分反応の開発にも成功している.さらに,当初,触媒としての機能のみに着目していた炭素酸が,「自身の持つ酸触媒作用によって,生成物となる自己促進的な多成分反応」という予期しなかった成果も得られている.
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