研究概要 |
本研究では,申請者らが開発したリン酸親和性電気泳動法(Phos-tag SDS-PAGE)を用いた2次元電気泳動法を基盤とした蛋白質翻訳後修飾の同時検出法の開発を行った.すなわち,1次元目としてSDS-PAGEなどの電気泳動法で分離した蛋白質を,2次元目としてのPhos-tag SDS-PAGEで分離し,リシ酸化とユビキチン化など,複数の翻訳後修飾を受けたタンパク質に関する情報を同時に得られる方法である. まず,2次元目のPhos-tag SDS-PAGEの改良を行なった.本研究以前に開発したPhos-tag SDS-PAGEはアルカリ性の泳動条件であり,Phos-tagとリン酸基の親和性において至適条件ではなかった.これを中性の泳動条件で行うシステムを開発,適用したところ,劇的な分離・分解能の向上が見られた.この改良型のリン酸親和性2次元電気泳動法を用いて,以前の方法ではできなかった,以下のような成果を得た. 1.Wntシグナルの構成分子であるβ-カテニンは,プロテアソーム阻害剤存在下のHEK293細胞において,ポリユビキチン化され,1次元目のSDS-PAGEで分子量の増加を検出できた.2次元目のPhos-tag SDS-PAGEでは,細胞内で恒常的に10種類のβ-カテニンのリン酸化状態が存在すること,さらにそのうち2つのリン酸化状態がポリユビキチン化とプロテアソームによる分解へと導かれることがわかった. 2.1次元目の電気泳動法として多種の手技を適用し,等電点電気泳動法,ネイティブ電気泳動法,ブルーネイティブ電気泳動法を組み合わせる事を試みた.これらは,リン酸基によるものを含めタンパク質の電荷の違いを分離する方法であるのに対し,Phos-tag SDS-PAGEはリン酸基による状態の違いのみを分離する特徴がある.この組み合わせの2次元電気泳動により,ニワトリの卵白アルブミンには遺伝的なアミノ酸変異による電荷の違いがあること,またそれらのそれぞれに4種類のリン酸化状態が存在することがわかった 3.蛍光ディファレンシャル電気泳動法でも高い分解能を示し,フォスファターゼ阻害剤存在下で高度にリン酸化される細胞内タンパク質を多数同定した.
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