研究課題/領域番号 |
22790040
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
本山 敬一 熊本大学, 大学院・生命科学研究部, 講師 (50515608)
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キーワード | シクロデキストリン / ドラッグデリバリー / 抗癌剤 |
研究概要 |
シクロデキストリン(CyD)は、細胞膜上のコレステロールやリン脂質と相互作用し、細胞膜成分を漏出させることにより赤血球の溶血や生体膜の膜透過性変化を惹起する。また、メチルβ-CyD(M-β-CyD)は、リピッドラフトからコレステロールを遊離し、細胞内シグナル伝達系に影響を与えること、さらに担がんマウスの腹腔内への投与により高い抗腫瘍効果を示すことが報告されている。そこで本研究では、CyDを基盤分子とした腫瘍細胞選択的新規抗がん剤の開発を目的として、葉酸修飾M-β-CyD(FA-M-β-CyD)を調製し、その化学構造および物理化学的性質について検討した。FA-M-β-CyDは、KB細胞(FR(+))に対して濃度依存的に細胞障害活性を示したが、A549細胞(FR(-))に対しては、ほとんど細胞障害活性を示さなかった。FA-Miβ-CyDは、コレステロールリッチリピッドラフトと相互作用し、細胞膜上からコレステロールを強く漏出させることが示唆された。KB細胞(FR(+))におけるFA-M-β-CyDの細胞障害活性は、FA添加により有意に低下した。このことから、FA-M-β-CyDの細胞障害活性は、FRを介することが示唆された。FA-M-β-CyDはFR発現細胞選択的に取り込まれることが示唆された。FA-M-β-CyDはKB細胞(FR(+))に対してオートファゴソームの形成を促進することが示唆された。これらの結果より、FA-M-β-CyDはFR高発現細胞選択的な抗腫瘍効果を示し、その効果にはFA-M-β-CyDの生体膜との相互作用、細胞内取り込み、オートファジーの関与が示唆された。担がんマウスの腫瘍の成長は、FA-M-β-CyDの腫瘍内および静脈内投与により有意に抑制された。以上の知見より、FA-M-β-CyDはFR高発現細胞選択的新規抗がん剤として有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、葉酸多分岐修飾CyD(FAn-M-β-CyD)を用いて腫瘍細胞選択的抗癌剤デリバリー法を構築することである。 平成22年度までの検討項目は、(1)FAn-M-β-CyDを新規に調製し、その物理化学的性質を評価する、(2)溶液中におけるFRとFAn-M-β-CyDの会合定数を表面プラズモン共鳴装置(SPR)を用いて定量する、(3)KB細胞を用いて、FAn-M-β-CyDがFR発現細胞選択的取込まれるか否かを明らかにする、であった。上記項目に関して、ほぼ検討が終了しており、良好な結果が得られている。次に、平成23年度以降の検討予定の項目は、(1)DoX/FAn-M-β-CyD包接複合体および結合体を調製し、DOX/FAn-M-β-CyD複合体および結合体のFR発現細胞選択的な抗腫瘍効果を確認する、(2)DOX/FAn-M-β-CyD複合体および結合体の細胞内動態を解析する、(3)担癌マウスにDOX/FAn-M-β-CyD複合体および結合体を腫瘍内、静脈内および経口投与した後、抗腫瘍効果および体内動態を評価する、であった。上記項目に関して、DOX/FAn-M-β-CyD包接複合体に関する検討は予定通りに進行しており、担がんマウスにおいても良好な結果が得られた。一方、DOX/FAn-M-β-CyD結合体に関しては、合成条件を検討中であり、平成24年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
DOX/FAn-M-β-CyD結合体に関して、合成条件の再検討を行う必要がある。仮に合成がうまくいかなかった場合は、FAn-M-β-CyD単独における抗がん活性が、invivoにおいて期待以上の結果が得られていることから、FAn-M-β-CyDの抗がん活性メカニズムについて評価検討を行っていくことも視野に入れている。なお、予備的検討から、FAn-M-β-CyDは、既存の抗がん剤にない新規作用機序を有する可能性が示唆されている。
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