研究概要 |
本研究では生体組織透過性に優れ自家蛍光の弱い波長領域である近赤外領域の蛍光に着目し、浸潤・転移、血管新生といった癌の悪性化と密接に関わり、がん治療上重要な標的である低酸素がん細胞を特異的かつ非侵襲的に生きた状態で可視化することを目的とする。 本年度においては、まずフロンティア軌道と蛍光特性の関連性に基づくプローブ分子設計の原理に注目し、低酸素領域特異的なニトロアレーンの還元的代謝反応に基づいて低酸素認識部位としてニトロベンジル基を選択した。近赤外蛍光色素としてはトリカルボシアニンを用い、ニトロベンジル基を本色素に組み込んだ一連の低酸素蛍光小分子プローブ候補の設計・合成を行った。続いて光学的な評価ならびに酵素を用いたin vitro評価を行って候補化合物の選抜を行った。その結果、トリカルボシアニンのインドレニン窒素原子に3,5-ジニトロベンジル基を導入した化合物の近赤外蛍光が、ジアミノ体へと還元された際に変化することを見出した。またこの蛍光変化はインドレニンの置換基により大きく左右され、適切な電子供与性官能基ならびに水溶性置換基を導入することによりこの蛍光が大きく増強することをも見出した。この蛍光増大は、還元反応によりプローブ分子同士のスタッキングが解消されること、ならびにフロンティア軌道の変化により合理的に説明することが出来た。さらにニトロレダクターゼを用いた酵素反応の結果からも、還元反応の進行とともに近赤外領域において大きく蛍光が増強することを見出し、本プローブが生体内反応の基質として働くことを確認した。 以上、本年度においては近赤外低酸素蛍光プローブの一次選抜を行い、有望な候補化合物を得た。今後in vitro培養細胞系を用いた機能評価によるスクリーニング、引き続いてin vivo動物実験系を用いた機能評価を行い、所期の目的を達成する。
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