研究概要 |
ホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸の中枢神経系における髄鞘形成の詳細な制御機構を明らかにするために、神経細胞、およびグリア細胞で特異的にホスファチジルイノシトール3,5-二リン酸合成酵素であるPIPKIII遺伝子を欠損するマウスを作製した。神経細胞で特異的に遺伝子欠損を導く事のできるEmx1-Creトランスジェニック(Tg)マウスとの交配の結果、神経細胞特異的なPIPKIII遺伝子欠損マウスは正常に生まれ、外観上の異常を認めなかった。さらに大脳および小脳に着目した組織学的解析においても、髄鞘形成に大きな異常は認められなかった。一方で、MBP-CreTgマウスとの交配で作製したオリゴデンドロサイト特異的なPIPKIII遺伝子欠損マウスは、加齢とともにほぼ全例で両側性の下肢痙性麻痺を発症するというヒトの遺伝性痙性対麻痺に似た、大変興味深い病態を示した。さらに脳梁に着目した超微形態解析を行うことで、髄鞘形成不全が見出された。これらの結果から、髄鞘形成には神経細胞ではなくグリア細胞(オリゴデンドロサイト)におけるPIPKIIIの役割が重要であることが初めて明らかとなった。 ホスファチジルイノシトール3,5-ニリン酸の筋肉細胞における糖代謝制御機構の解析においては、筋肉特異的PIPKIII遺伝子欠損マウスを用いた解析で明らかとなった個体レベルでの耐糖能の改善に関して、培養筋細胞を用いた系では再現することは出来なかった。この結果から、PIPKIIIがインスリンシグナリングへ直接的な影響を及ぼしている可能性は低いと考えられた。
|