アトピー性皮膚炎は,難治性の掻痒性皮膚疾患である。アトピー性皮膚炎の主要な症状の一つに痒みがあり,その痒みに有用な治療薬はほとんどなく,また,痒みの発生機序はよくわかってないため,治療薬開発に重要な情報源がないのが現状である。我々は,これまでに自然発症アトピー背皮膚炎マウスモデルの痒み反応にセリンプロテアーゼやプロテー活性化受容体2(PAR2)が関与することを明らかにした。本研究では更にセリンプロテアーゼの一つであるグランザイムが関与する可能性を見出し,11種あるグランザイムの中でもアトピー性皮膚炎マウスモデルの皮膚では,グランザイムA,B及びC mRNAの発現が健常マウスと比べると増加していることを明らかにしてきた。本年度は,更にアトピー性皮膚炎皮膚において健常マウスの皮膚に比べるとグランザイムAの酵素活性が増加していることを見出した。また,健常マウスへのグランザイムAの皮内注射により痒み反応が惹起されること,一方グランザイムB,D及びKは痒み反応を惹起しないことを見出した。また,グランザイムA誘発痒み反応がPAR2の中和抗体による抑制に加え,ナルトレキソン(ミューオピオイド受容体拮抗薬),ナファモスタットメシル酸塩(セリンプロテアーゼ阻害薬)によって抑制されることを明らかにした。皮膚におけるグランザイムA発現陽性細胞は,健常マウスと比べるとアトピー性皮膚炎マウス皮膚において,グランザイムA発現陽性細胞数の明らかな増加が認められた。また,CD3陽性及びCD4陽性T細胞もアトピー性皮膚炎マウス皮膚で増加していた。以上の結果から,アトピー性皮膚炎の痒みにはT細胞から遊離されるグランザイムAが重要な役割を担っていることが示唆される。今後,T細胞の関与の可能性があり,PAR2の関与する痒みを生じる皮膚糸状菌誘発の痒みや蚊アレルギーの痒みへのグランザイムの関与を検討する予定である。
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