神経は伝達物質をシナプス小胞内に濃縮しシナプス間隙に開口放出することで、後シナプス側にシグナルを伝達する(化学伝達)。我々は、アスパラギン酸、ATPをシナプス小胞内に濃縮する分子装置をそれぞれ世界に先駆け同定し、これらを小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT)、小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)と名付けた。本研究課題は、モデル生物としてショウジョウバエを用いて、VEATとVNUTを通じたアスパラギン酸及びプリン性化学伝達の生理的意義を解明することを目的とする。これにより、アスパラギン酸とプリン性化学伝達の創薬ターゲットを定義することが可能となる。これまでに(1)VEAT、VNUTの輸送には塩素イオンが必須であること、塩素イオンとケトン体との競合的作用により輸送活性を生理的にオン-オフしていることを見いだした。(2)ショウジョウバエ遺伝子の中からヒトVEATとヒトVNUTのホモロジー検索をし、その中からシナプスに発現している遺伝子を見い出した。(3)これらの遺伝子をクローニングし、昆虫細胞を用いた大量発現・精製・輸送活性測定系を構築した。(4)その結果、ヒトと同様にショウジョウバエでも輸送機能が保持されていることを見い出した。(5)ヒトVEAT遺伝子の変異によって、サラ病と小児シアル酸蓄積症を引き起こすことが知られている。これら変異が輸送活性に与える影響はヒトとショウジョウバエで一致した。(6)それぞれの遺伝子ノックアウトショウジョウバエを作製し、現在、表現型を解析し、有力な結果を得ている。以上のように研究は着実に進展している。
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