研究概要 |
本研究は様々な遺伝子壊変酵母のミトコンドリアを用いて、アポトーシス実行のトリガーとなるマシナリーである「ミトコンドリア膜の透過性遷移」を制御する遺伝子を同定することを目的とする。前年度はこれまで透過性遷移の制御に関与していることが報告されているAdenine nucleotide translocaseの3つのアイソフォーム(AAC1、AAC2、AAC3)、porinの2つのアイソフォーム(POR1、POR2)、hexokinaseの2つのアイソフォーム(HK1、HK2)についてそれぞれ遺伝子破壊酵母株を構築し透過性遷移に及ぼす影響を調べたが、どの遺伝子を破壊した場合についても透過性遷移への影響は認められなかった。しかし、この実験では単一のアイソフォームのみを欠損させていたため、透過性遷移に及ぼす影響が不十分であった可能性が考えられた。そこで本年度は、アイソフォームを全て欠損させた多重遺伝子破壊株(AAC1,2,3破壊株、POR1,2破壊株、HK1,2破壊株)を構築し、これらの変異株から単離したミトコンドリアを用いて透過性遷移の誘起に及ぼす影響を解析した。その結果、いずれの変異株のミトコンドリアでも透過性遷移は野生型と同等に誘起されたことから、これまで透過性遷移の制御に関与していると考えられてきたAAC、POR、HKはいずれもその制御に中心的な役割を果たしていないことが明確に示された。我々はさらに複数の遺伝子について同様の解析を行ったが、いずれの遺伝子も透過性遷移との強い関連を示すには至らなかった。 これまで、特にAACとPORについては、透過性遷移への関与が世界的に広く信じられ、今では多くの参考書にこれに関する記載がまことしやかになされている状況にある。従って、AACとPORが実際には透過性遷移に関与していないことを示した本研究のインパクトは大きい。また同時に、本研究の結果から、透過性遷移の制御にクリティカルに関与する未知の遺伝子が存在することが強く示唆される。今後、透過性遷移に関与する遺伝子の候補を新たにスクリーニングし直すことが必要である。
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