研究概要 |
2種の抗癌剤(MMCまたはドキソルビシン)で大腸癌HT29細胞を長期間曝露することにより、それぞれの耐性細胞株を調製した。両耐性細胞のうち抗癌剤感受性の低下が顕著であったMMC耐性細胞中のアルドケト還元酵素(AKR)発現量を調べたところ、AKR1B10はMMC耐性化に伴って増加し、その変動は他のAKRファミリー酵素(AKR1C1,AKR1C2とAKR1C3)よりも大きかった。AKR1B10は癌細胞の増殖を誘導することが知られているため、MMC耐性化時の細胞増殖能を対照細胞と比較したところ、耐性化の程度と増殖能との間に正の相関は認められなかった。MMCによる大腸癌細胞毒性機序の一つに酸化ストレスの誘導とそれに伴う(4-ヒドロキシ-2-ノネナールなどの)過酸化脂質の増加が知られるが、MMCや4-ヒドロキシ-2-ノネナールによる細胞毒性はAKR1B10の過剰発現によって有意に抑制された。また、我々が以前に見出した強力なAKR1B10阻害剤(クロメン誘導体)の添加はMMC耐性細胞の抗癌剤感受性を顕著に高めた。これらの成績から、AKR1B10はMMCによる癌細胞傷害時に生成する過酸化脂質を解毒することによって大腸癌HT29細胞の耐性獲得に関与すること、並びにAKR1B10の特異的阻害剤にはMMC耐性化を抑えるアジュバンド効果があることが示唆された。 白金製剤(シスプラチンとオキザリプラチン)についてもMMCと同様に耐性化細胞を調製し、それら細胞中の上記4種のAKRファミリー酵素の発現量を調べたところ、いずれの酵素も耐性化に伴って減少傾向を示したことから、AKR1B10阻害剤は白金製剤よりもMMCに対する癌細胞耐性化に有効であることが推測された。
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